肥満症新ガイドライン2024:高齢者の肥満、高度肥満症、スティグマ、薬のポイント

肥満症 新ガイドラインのポイント

新ガイドラインとは? 肥満の度合いを測るBMIについて ガイドラインのポイント

新ガイドラインとは?

2022年末、日本肥満学会によって6年ぶりに改定された「肥満症診療ガイドライン2022」が発表されました。それによると肥満症の治療は今まさに大変革の時期を迎えているといいます。これまで治療の手が差し伸べられなかった部分にまで届く、最新の肥満症治療の方法や知見をご紹介します。

ここでは新ガイドラインの大きな柱の中から「高齢者の肥満」、「高度肥満症」、「スティグマ」、そして革新的な「薬」の4つをとりあげます。

肥満の度合いを測るBMIについて

ポイントの説明の前に、基本となる「肥満かどうかを知る方法」についてご紹介します。肥満を図る指標として使われているのが、BMIと呼ばれる数値で「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」の計算式で求められます。

自分のBMIが一目でわかる「BMI一覧表」はこちら。

日本人の場合、BMI 18.5〜25未満が適正体重、25以上が肥満にあたります。25を超えると糖尿病や高血圧などの健康障害が起こりやすくなります。そしてさらに、それら健康障害を合併した状態などになると肥満症という病気と診断され、医学的に減量が必要な状態になります。肥満症の診断基準に必要な健康障害は、以下の11種類です。

  1. 耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)
  2. 脂質異常症
  3. 高血圧
  4. 高尿酸血症・痛風
  5. 冠動脈疾患
  6. 脳梗塞・一過性脳虚血発作
  7. 非アルコール性脂肪性肝疾患
  8. 月経異常・女性不妊
  9. 閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群
  10. 運動器疾患(変形性関節症(膝・股関節・手指関節)、変形性脊椎症)
  11. 肥満関連腎臓病

ガイドラインのポイント

①高齢者の肥満について

新ガイドラインでは高齢者の肥満について、やせるべきかどうか見極めが大切としました。目標BMI値は22〜25とし、通常の目標値よりも高めに設定しています。つまり太り過ぎも悪いが、やせすぎても良くないということです。高齢者の場合、やみくもにやせると、骨が弱くなったり、フレイル(虚弱)と呼ばれる状態になったりして、転倒や骨折のリスクが高まります。また太り過ぎても、ひざや腰の痛みにつながるだけでなく、認知症のリスクを高めるという研究もあります。若い頃の考え方や習慣を続けていると、体重が過度に減ったり増えたりすることもあるので、筋肉量を維持しつつ、その人に合わせた肥満対策を探っていくことが重要です。

②高度肥満症について

肥満症の中でもBMIが35以上は、高度肥満症に分類されます。通常の肥満に比べて、睡眠時無呼吸症候群が強くなったり、心不全が起きたり、皮膚疾患が増えたりとさまざまな特徴があります。また、これくらい体重が増えると足や腰に痛みが出て、そのため活動が制限され、さらに体重が増加するという悪循環に陥ることも多くなります。

新たなガイドラインでは、高度肥満症の治療の選択肢として手術を紹介しています。腹腔鏡を使った「スリーブ状胃切除術」というもので、胃を切ってバナナのような筒状にする手術です。

③スティグマについて

スティグマとは、誤った理解に基づく偏見や社会からの烙印(らくいん)のことです。軽はずみな言動を含め、肥満はスティグマの対象になりやすく、誰にとっても関わりがあることです。

スティグマには大きく2つ、社会的なものと個人的なものがあります。

  • 社会的なスティグマとは、「肥満の人には自己管理能力がない」とまわりの人が思いこんでレッテルを貼ることです。
  • 個人的スティグマとは、肥満の人が自分の肥満について「自己管理の問題だから、医療を受ける対象ではない」と思いこむことです。

肥満の発症には、遺伝的・体質的要因に加え、心理的・社会的要因も多いにも関わらず、必要以上に食習慣に問題があると思われやすい傾向があります。そうしたスティグマが治療の障壁になることも多いため、今回のガイドラインではその解消を訴えています。肥満の治療は、薬によるものや手術によるものなど拡充されつつあります。肥満症に悩んでいる人や身近にそういう人がいる方は、自己管理のせいにせずに、気軽に肥満症外来か内科に相談することをおすすめします。

④革新的な「薬」について

これまで肥満や肥満症の薬は、かなり限られた状況でのみ使えるものしかありませんでした。しかし研究開発が大きく進み、2023年になって続々と承認・発売される見込みのものが出てきたのです。ひとつは2023年2月、日本で初めて承認された、処方せんなしに薬局で買える肥満対策の市販薬「オルリスタット」です。もうひとつは、肥満症を治療する処方薬「セマグルチド」です。みなさんの関心は高いようですが、使用には注意点があります。各ページで詳しく解説していきます。

まとめ
新ガイドラインに基づく肥満症のポイントをまとめます。高齢者の肥満、高度肥満症、スティグマ、そして革新的な薬について知識を深めました。肥満は健康に重大な影響を及ぼすため、正しい理解と適切な対策が必要です。個人の状況に合わせたアプローチが大切であり、スティグマを乗り越え、医療のサポートを受けることが重要です。